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「第一章」

新幹線で名古屋まで行き、そこから乗り換えて岐阜駅まで向かう。通り過ぎる人の言葉遣いも、方言染みたものとなっていき、遠くまで来たものだと実感する。途中のホームで楽しそうに会話する数人の男女がいた。きっと旅行でここに訪れているのだろう。口調も標準語だったし、手元に持っている旅行鞄が何より「旅行で来た」というオーラを放っている。
そして私の手元にも同じように大き目のバックが握られていた。周りの人達には彼らと同じように旅行者に見えるだろう。しかし私の口から漏れるのは楽しく旅行の予定を確認する言葉ではなく、重い溜め息だった。
「こら茜、なんて顔してんのよ」
そんな私の様子に気がついたのか、隣で歩いていたお母さんが怪訝な表情で私を見つめる。私は一度母親に顔を向けると、再び溜め息をつく。
「旅行だったら、私も嬉しいのになぁ…」
口を尖らせ、拗ねた様な口調でお母さんに言い捨てる。実際、これが旅行だったら今頃はお母さんを置いてでも駅から飛び出して、すぐに辺りを散策しているだろう。だが、違うのだ。それはあくまでも「旅行」の話で、今私たちはここに「住む」為に来ている。
「しょうがないでしょう。お父さんの都合なんだから」
「転勤とは、ベタだよね」
お父さんの転勤の話が決まったのは急だった。いや、話自体はすでに決まっていたのだろうが、私の耳にそのことが入ったのは転勤する前日のころだった。当初その話を聞いたときは「サラリーマンも大変だなぁ」という能天気な考えだったのだが、それが甘かった。
転勤ともなると、お父さんは一人暮らしをすることになる。自慢ではないが私のお父さんは頭が良い。仕事もでき、会社ではそこそこの地位にいる。だけど、その反面私生活の駄目っぷりは目を瞑りたくなるようなもので、料理は勿論のこと、掃除、洗濯もロクにできない。一人暮らしなど、夢のまた夢である。
もちろんそんなお父さんのことを知り尽くしているお母さんが、そのまま「気をつけてね」と見送るだけでは済まない。これまた私の耳に入れることなく全ての事務処理を終えた。こともあろうに、高校の転校手続きも済ましていた。私の許可もなく。
私が引越しに反対するのを分かっての事だった。しかし全ては後の祭り。話を聞かされたのが二日前の木曜日、そして、先週から予定を組んでいた友達とのカラオケは、クラスメイト総出での「お別れカラオケ」となってしまったのである。
高校に入学してから数ヶ月が経ち、やっと馴れ合ってきた頃に転校である。そりゃあ、殆どが違う中学校の人間だったけど、小学校から一緒の友達もいたから悲しさは一層深かった。
「でもさ、岐阜ってどんな所なの?旅行とかでも来たことないし、観光ブックにもそんなに取り上げられてないよね」
自動改札に切符を入れながらお母さんに問いかける。岐阜と聞いても名前は知ってても特に特徴は挙げられない。
「有名なのは、白川郷かしら?それ以外はお母さんもあんまり詳しくないんだけどね」
私に次いで自動改札を潜りながらお母さんが答える。白川郷?その言葉を聞いても私はピンと来なかった。
「世界遺産に指定されてる村なのよ」
「そんな所があるんだ。行ってみたいなぁ」
「落ち着いたら、お父さんに連れていってもらおうね」
「うん!」
大きな不安と不満。それに少しだけ期待を持ちつつ、私は駅構内から出た。

―JR岐阜駅前―
初めて岐阜の土地に立った私の第一印象はあまり好くなかった。岐阜県の都心部であろう駅前。以前住んでいた土地や、名古屋駅前では聳え立っていたビルが、ここには無かった。いや、あることはあるのだが、中途半端な高さのもばかりで、人通りもさほど多くは無い。
違う意味であっけにとられている私の横で、お母さんは携帯電話で誰かと会話していた。おそらくはお父さんだろう。会話が終わり携帯電話をバックの中に入れると「あと五分位したら、お父さんが来るそうだから」と笑顔で言った。久しぶりにお父さんに会えるから嬉しいのだろう。私も実際嬉しかった。
照り付ける日差しの下、私達はすることもなくお父さんを待っていた。私は携帯を無意味に開いては閉じを繰り返していた。少ししてから私達の目の前に停まった乗用車。それに乗っていたのはお父さんだったが、見慣れない岐阜ナンバーに乗っている姿は少し面白かった。
「久しぶりだな。どうだ元気だったか?」
冷房の効いた車内に乗り込むと、開口一番お父さんがそんなことを聞いてきたので、「友達と離れ離れになるショックで、一晩中泣いた」と軽口で返してやった。転校の理由を作った、お父さんへの些細な仕返しだった。
「…悪かったな」
予想以上に落ち込んでしまったお父さん。軽い気持ちだったのだが、こうも落ち込まれると申し訳なくなってしまう。
「で、でも。それよりお父さんの体が心配だったから、ちょうどよかったわよ」
少し強引に笑顔を作り、できるだけ明るい口調でフォローを入れる。私のその言葉でお父さんの表情はみるみるうちに緩くなっていった。まったく分かりやすい人だ。
「ねえ、それより新しい家ってどうなの?確か関市っていう場所だっけ?」
今までマンション住まいだった私達だったが、これを気に一軒家を購入したらしい。それはつまりお父さんの転勤がけして短期ではないということを物語っていた。一軒家は少し憧れていた。マンションだと色々気苦労もあったし。
それに新しい町にも興味があった。駅前を見る限り都会とは言えないだろうけど、やはり新しい町にはどうしても期待をしてしまう。
「ああ、新しい家は広いし、快適だぞ。それに関市もいい所だ」
「刃物の祭りがあるんでしたっけ?」
関市、という言葉に反応してお母さんが話しに入ってきた。きっと事前に調べておいたのだろう。
「刃物の祭りって…なんか物騒だね」
刃物の祭り。効くだけでも危ない香りがプンプンしてきた。私の頭の中では出店に日本刀や包丁が並べられている映像が映し出されたが、なんともシュールな光景だった。

―県道287号車内―
広く、綺麗な川を沿う堤防を走る車。私が住んでいた町では有り得ない程の広さと澄んだ水だ。川というのは、もっと淀んでて狭いイメージがあったのだが…広い川原では家族連れや、若い人たちがバーベキューをやっていた。
名を「長良川」と言うらしい。恐らく活字上の知識だが、お父さんが詳細を教えてくれた。
清流として有名であり、柿田川、四万十川とともに日本三大清流のひとつと言わており、木曽三川の一つとしても有名で、鵜飼という行事があることも有名。
「鵜飼って?」
これまた聞き覚えの無いワードが飛び出してきた。
「船でかがり火を焚いて、その火の明るさに寄ってきた鮎を鵜っていう鳥が捕まえるんだ」
「そうなんだ、でも鳥って魚を食べちゃうんじゃないの?」
私の言葉を訊いてお父さんはハハハ、と笑った後にさらに詳しく説明してくれた。
「鵜の首には縄が巻いてあるんだ。それで、鵜が魚を捕まえた瞬間に船頭さんが縄を締めて飲み込まないようにするんだ」
「鵜飼は有名だけど…やっぱり残酷よねぇ」
私と全く同じ感想をお母さんが漏らす。刃物の祭りといい、鵜飼といいさっきからあまり良い印象がないぞ、岐阜県。
私は溜息をつき、窓の外に目を向ける。さっきまでかろうじて残っていた建物は殆ど姿を消し、今目に入るのは、山と川と民家だけ。少し期待をしていた私の理想像は脆くも崩れ去った、それもかなり派手な音をたてて。やっぱり不便より便利のほうが良い。さっき見掛けた線路は既に廃線なっているというし、若者向けのお店なんて全くといっていいほど無い。いったい服とかどこで買えばいいのよ。
車が進むにつれて田舎度が増えていっている気がする。もう十分だろうと心の中で何度も停車を願ったがそれも空しくそれから車は三十分ほど走り続けた。

―岐阜県関市―
「さぁ、着いたぞ!ここが新しい我が家だ!」
車を降りるなりハイテンションでお父さんが両手を挙げる。その前には木で建てられた一軒家、ログハウス風の洒落た造りだった。しかし、住宅地である為かかなり浮いたオーラを発している。表札に彫られた松崎という二文字が、岐阜ナンバーと同じで違和感を感じ、面白かった。
「写真では見てたけど、やっぱり実物は凄いわね」
目を細め、「新」松崎家を見上げるお母さん。というかこの二人は私の居ない所で話を進めすぎだ。もう私も高校生なんだから少しくらい意見を尊重して欲しい。
私も改めて我が家を見上げる。まだここに住むなんて実感は全然湧かなかった。まだ心の何処かで信じれなかった。少し経てば以前のマンションで毎日を過し、特にやることも無い学校で友達と話して、ろくな予定も無いのに週末を待ち望む日常が始まると思っていた。
だから、いまいち現実味が無い。急な引越しってのもあるかもしれないけど、この新しく始まるであろう日常に慣れる自信は無く、ただただ浮ついた旅行気分だった。
蝉がけたたましく鳴き叫び、いよいよ夏が本格的に始まる頃甲子園や、海開きなんかの報道が段々と近づいてきた七月のそんなある日。
私、松崎茜の…新しい日常が始まった。
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No title

新章始まりましたね!!!
今度の主人公は女の子ですか。
私も今は素子視点で書いているのでなかなか難しいですよね。
これからの展開に期待しています♪

No title

素子の様に個性的なキャラではないので、比べたら比較的楽なのかなぁと思います。
実は新作は、高校の時に書いた小説をあげようと思ったんですが、PCが実家なので断念した結果、完全新作にしましたww
実質地元紹介小説(略してZJSSw)なんで、正直とっつきにくい内容になるかと。ジャンルとしたら柄もなく恋愛青春ですww

No title

先日はコメントありがとうございました。
前作も読ませて頂きましたw
主人公の内面が出てたせいか殺伐とした始まりでしたが、
徐々に優しくなっていき、読後感は爽やかで気持ちのいい小説でした。
新作はガラッと変わって女の子が主人公なのですね♪

No title

>momokazuraさん

閲覧ありがとうございます♪
感想をそう言ってくださって恐縮&喜びです。
新作は明るい感じでいこうかなと思い女の子にしたんですが…
読み返してみるとあまり明るくないですね(泣)
女の子視点なんか俺にできるはずがなかった…orz

momokazuraさんのHPにもちょくちょくストーキングさせてもらってますんでwwwこれからもよろしくです♪
プロフィール

キイト

Author:キイト
名前 キイト(由来は特に無いです

性別 男性

年齢 二十歳以下です

これでもある球技で全国でてます。ちなみに主将。
唯一の自慢できることでした。

好きな物はバイクやゲーム。
最近ちょっとオタクに近づいてたりします。萌えー

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