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第二章-1

「松崎さんって都会から来たんやおね?」
「そんなに都会ではないよ」
「どの辺に住んどんの?」
「えっと、自分でも良く分かんないや。西の方かな?」
「やっぱり喋り方が違うんやね」
「一応関東だから、標準語なんだよ」
転校初日。自己紹介を済ませた私は指定された席に着くなり、ほぼクラスメイト全員から質問攻めに合っていた。というかこの地方の方言は独特だ。いや、方言は独特なのが当たり前なのだけれども、なんだか不思議な喋り方だ。
名詞の発音は標準語、つまり東日本よりなのだが、語尾は関西弁に近くいわゆる西日本よりなのだ。日本の真ん中の県だからだろうか?ある意味中途半端な方言に思えた。
あまり馴染める気がしなかった。そりゃあまだ初日だからなんとも言えないが、新しい制服も、この方言にも、この町にも溶け込める自信が持てない。どこか客観的に自分を見てしまう。
―帰りたい…
素直にそう思う。本来なら質問攻めなんかにはあってなくて、今日の放課後の予定を話し合ったり、授業に対する愚痴を言っている筈だ。そして目的がある訳でもなく友達と街中をぶらつく。それが今までの日常だったのに。
私の苦悩なんか察してくれるわけがなく、授業開始のチャイムが鳴るまで私は聞きなれない言葉と見慣れない人たちとぎこちない会話を続けていた。
新しい学校は市立の高校で、なんでもない普通の共学の学校。家で読んだパンフレットではそこそこ歴史のある学校らしく、部活動が盛ん(あくまで盛んであって強いとは明記されていなかった)。丘の上に建っているので長い坂を超えて登校しなければならないのが苦痛だ。
教室の窓から見下ろすグラウンドはラグビーのポールだけが妙な存在感を放ち、それ以外には山しか映らない殺風景な景色。自然に恵まれているのは分かったから、もう少し快適な土地に建てかえてくれないだろうか。
履修の順番が違うのか、既に習ったことのある授業内容を聞きながらそんなことを思っていた。


授業終了のチァイムが教室に響く。長く感じた一日もようやく終わりを向かえ、私の心は少しだけ軽くなる。再び質問攻めに会う前に私は帰り支度を素早く済ませ、気配を消して教室から逃げ出す様に出た。
駐輪場までダッシュで向い、自転車に鍵を挿そうとした時、私は一人の男子生徒に目線を奪われた。特に容姿端麗とかそういう意味ではない。新しい学校では全ての生徒が何かしらの部活動に参加しなければいけないので、下校時間になって即帰宅できるのは転向して無所属の私ぐらいで、他の生徒はまだ教室やそれぞれの部室にいるはずなのである。まあ部活をサボったりほぼ活動していない部活もあるので一概には言えないが、現に駐輪場には私と彼しかいなかった。
駐輪場は学年で分けられていて、彼の立っている位置を考えるとどうやら私と同学年のようだ。
「なに?」
私の視線に気が付いたのか怪訝そうな顔をして首を傾げる男子生徒。私は黙って見つめていた事にバツが悪くなり慌てて首を左右に振り「なんでもないです!」と言って再び鍵穴に鍵を差し込もうとするが、中々入らない。焦る気持ちが余計に増幅され、なかなか差し込めない。
「あのさ…」
「はい!?」
突然話しかけられ声が裏返り、その拍子に鍵までも落としてしまう。いつの間にか私の傍に寄ってきていた彼は私の落とした鍵を拾い上げて自分の顔まで持ち上げると小さく溜め息をついて口を開いた。
「これ、自転車の鍵じゃないやろ?」
「え?…ああ!」
彼の言葉に持ち上げられた鍵をよく見るとそれは確かに自宅の鍵だった。それじゃ焦っていようがなかろうが、鍵穴に入るわけがない。指摘されたことと、目前に迫った彼の顔。二重に受けた衝撃が大きすぎて言い訳の言葉も出てこない。
「あ、ありがとう…」
必死に搾り出した声がこれだけだった。なんとなくそっけない気がするが今の私にはこれが精一杯だった。彼はそれを咎める事も、引き返すこともしないでずっとそこに立っていた。早く帰ってくれと心の中で願うがなぜか彼は動かない。
「転校生やろ?」
彼の言葉に一気に冷静さを取り戻す私。結局この人も他所から来た私に何か聞きたいのだろう。そうなる前に私は頭を下げ「ありがとうございました」とそっけない礼をして、鍵の種類を確かめながら自転車に手を伸ばした。それにしても私の存在は既に学年中に広まっているのだろうか?なんだか自分が見世物の様に感じてしまう。
「そうだよ、だから今日は早く帰らなくちゃいけないの」
確かに鍵を指摘してくれたことには感謝しているが、なぜか怒り口調で喋ってしまう。今日一日イライラが募っていたのかもしれない。鍵も開け、自転車に跨ったところで彼から思いもしなかった言葉が飛び出した。
「俺も転校して来たんやて」
「え?」
「だから、俺も転校生。先週引っ越して来たばっかりなんや」
首を傾げる私に喋ることを止めない自称転校生。
「ま、俺は県内からだけどさ。でも岐阜ってでら広いからさ、特に俺は山ばっかの所から来たもんで関市でも都会に見えてまうし」
豪快に笑いながら喋る彼。ここより山ばっかってどれだけ田舎なのか想像する事さえ難しかった。だけど同じ転校生と聞いて親近感が沸いてきて、それから他の生徒がやってくるまでお互いの事を話し続けた。
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No title

地元だからか、原風景が頭の中に広がる描写です。
岐阜の方言は聞きやすそうですね。
我が田舎の方言は字幕スーパーがないとヤバイそうです。

お久しぶりです!
やっぱり故郷のことを書くと誰でも文章がイキイキしてきますね。
「easy come easy go」のようなシリアスな文章からこの作品のように明るいタッチの文章も書けて、表現の幅が広くて羨ましいです。

No title

お邪魔します^^
その土地の人間じゃないと難しいので、
リアルならではの方言は興味深いですね♪
都会から田舎に引っ越してきたらキツイですよ。
若い子ならなおさらじゃないでしょうか^^;

No title

続き待ってました~♪
でら、って名古屋の方だけじゃないんですね。
岐阜でも使うのかしら?
プロフィール

キイト

Author:キイト
名前 キイト(由来は特に無いです

性別 男性

年齢 二十歳以下です

これでもある球技で全国でてます。ちなみに主将。
唯一の自慢できることでした。

好きな物はバイクやゲーム。
最近ちょっとオタクに近づいてたりします。萌えー

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