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「なぁ秀護…」
「ふぁあに?」
口の中一杯にオムライスをぶち込んでいるため、発音がおかしいまま答える秀護。
「お前、ジャガイモ好きか?」
「まぁ普通だよ」
俺はそれを聞くと素早く秀護の皿の上に茶色の悪魔を移動させた。そして「食べていいぞ」と促す。
「ふーん」
悪戯な笑みを浮かべてジャガイモと俺を交互に見る秀護。そして嫌味ったらしく口を開いた。
「好き嫌いすると、ろくな大人になれないんじゃないの~」
スプーンでジャガイモをつつきながら言う秀護はどこか楽しそうだった。
「俺は…いいんだよ。ろくな大人じゃないから」
「なにそれ?ズルいなぁ」
そう言ってスプーンでジャガイモを口の中に放り込むと、美味そうに口を動かした。
…そう、俺はろくな大人じゃない…だからいいんだよ

食事も終わりドリンクバーで俺はコーヒー、秀護はジュースを飲んでいた。何回もお代わりをしていて、よくそんなにも甘ったるい飲み物を飲めるなと感心してしまう。
いかにも子供らしい。ジュースを色々調合して不思議な色の飲み物を持ってきたりして、学生の頃に俺もやったなぁと思う。
飲んだり、喋るのにも飽きると必ずやってしまうのだ。今にしてみればさぞ店員は困っただろう。
「おい、食いもんで遊ぶなよ」
さっき秀護のもつグラスを見て店員が「遊ぶんじゃないわよ」オーラを俺に向けてきたので注意をする。
「これは食べ物じゃなくて飲み物だよ~」
そんな屁理屈を言いながら、尚もストローでグラスの中をかき混ぜている。俺はため息をついて立ち上がった。
「ほら、もう行くぞ」
伝票をつまんでレジに向かう。後ろから「待ってよ」と言う声とともに秀護が小走りで走って来るのが分かった。会計を済ませてお釣りを貰う時に、店員に声を掛けられた。
「可愛いお子さんですね」
ああ、この店員は俺が秀護の父親だと勘違いしているのだろう。その言葉を聞いて俺は笑ってしまった。突然笑い出した俺を不思議に思ったのか店員も、秀護でさえも首を傾げていた。漫画なら頭上にクエスチョンマークでも浮いているだろう。
俺はそんな二人はお構いなしに、声を押し殺しながら肩を揺らせ笑い続けた。まったくとんだ冗談だ。
「…失礼。ちょっと面白かったんで」
ようやく笑止んだ俺はまっすぐに店員を見詰めた。
「俺は…ただの運転手ですよ。コイツの親でも、ましてや救世主でもない」
そう言って精一杯の作り笑顔を浮かべて見せた。店員はますます意味が分からないといった表情を見せた後、慌てて営業スマイルを浮かべ「ありがとうございました」と頭を下げた。妙に薄っぺらい笑顔を浮かべる俺と店員だったが、秀護だけは浮かない顔をしていた。
俺は何も言わずに秀護の頭をなでると「行こうぜ」と促して店を後にした。


夜も更け、完全に月の明かりだけが頼りになる海岸線に俺は車を停めていた。隣では座席を倒し眠りについている秀護がいた。
虫の声も消え、波の音だけが支配する車内に俺は目を瞑り考えていた。ファミレスから再びあの海岸線へ戻る途中、秀護は俺に一つだけ質問をした。それは店を出る前に店員に言ったあの言葉の意味。
-俺は…ただの運転手ですよ。コイツの親でも、ましてや救世主でもない
秀護の質問に俺はそのままの意味だと伝えた。納得のいかない表情を浮かべた秀護だったが、これ以上詮索しても答えが出ないのを察したのか、早々に椅子を倒し目を閉じてしまった。
嘘を言ったつもりはない。ただ、あの言葉は店員や秀護に向けた言葉ではない。自問…そう、何よりも自分に言い聞かせた言葉だった。
正直なところ、俺は楽しかったのかもしれない。文句を言いながらでもコイツといた時間が、何処か新鮮で、懐かしく思えていた。爪を噛んでいたのも最初だけだ。
秀護の話を聞き、救世主になりたかった。コイツの親になりたいとも思った。それができなくとも、支えにはなりたいと思った。
……違う。本当はそんなこと思っちゃいない。
秀護の望みを聞き入れることで、今までの罪滅ぼしをするつもりだった。他愛のない話をすることで、投げ出した日常を味わいたいだけだった。支えるつもりで、本当は俺が支えられていた。
俺は逃げていただけなのだ。日常から、現実から目を逸らして…
家を飛び出したのもそんな理由だった。毎日が変わらなくて、生きているのか、いないのか分からなくなって、そこから抜け出せば何かが変わると思っていた。
だけども、変わらなかった。目新しいのは最初だけで、慣れてしまえば非日常も日常になる。空腹から手を伸ばした空き巣も、「何か」に対する俺なりの抗いだったのかもしれない。
塀の向こうで俺は全てを失った。家族も、友人も、日常すらも…全部失った。残ったものは薄っぺらなプライドと、法を脱しながら生きていこうという半端な覚悟だった。
秀護と出会い、俺が一番欲しているのが平凡な日常だと分かった。
秀護はいつも逃げなかった。実の父に虐待をされても、新しい母に相手にされなくても、たった一つの希望がある限り、逃げなかった。少なくとも、俺の前では。
そんな秀護に対して俺が父親?救世主?他人に言われて気がついた。俺にそんな権利はない。
そう思った瞬間笑いがこみ上げてきたのだ。今までそんな風に生きてきた自分が滑稽で、哀れで、泣いてしまいそうなくらい可笑しかったのだ。
だから俺はただの運転手。明日秀護を母親の所まで送って俺の役目は終える。終えなければならない。秀護とはもう出会ってはならない。
そしてまた日常と非日常の間を中途半端に生きればいい。そして誰にも知られずに意味のない人生を終えればいい。それこそが最良の選択だ。
繰り返し、繰り返し流れる波の音、少し開けた窓から入り込む涼やかな風を浴びつつ俺は眠りについた。
プロフィール

キイト

Author:キイト
名前 キイト(由来は特に無いです

性別 男性

年齢 二十歳以下です

これでもある球技で全国でてます。ちなみに主将。
唯一の自慢できることでした。

好きな物はバイクやゲーム。
最近ちょっとオタクに近づいてたりします。萌えー

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