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12

暑い。あまりの暑さに体が汗ばんで、背中にへばりついたシャツの感触が気持ち悪い。若干腰に痛みがあるのも確認できた。覚醒する意識と比例するようにゆっくりと瞼を開ける。視界には低い天井、周りを確認すると隣の座席では秀護が気持ちよさそうに眠っていた。
座席で寝るのは、辛い。秀護のように子供だったらいざしらず、俺の体には狭すぎるベッドだ。
俺は大きく口を開いて、豪快に欠伸をする。フロントガラス越しに照りつける太陽が車内の温度を上昇させて、俺から水分を奪おうとする。
-よく眠ってられるな。
額に少し汗を浮かべながらも、その瞼は閉ざされたままの秀護を見て思った。俺は堪らなくなりキーを回しエアコンを掛ける。徐々に冷たくなる風が汗ばんだ俺の体を心地よく包んでくれた。車内のデジタル時計を確認すると朝の九時、そして次に気が付いたのは昨日の夜にはなかった無数の車と砂浜から聞こえる楽しそうな声。きっと家族旅行か何か、それか地元の人達なのだろう。絶えることなく笑い声が響いていた。
「ん……」
ぼんやりと目の前に留っている車を眺めていたら、秀護が声を発した。目を向けると、ゆっくり体を起こしまだ半分閉じかけている目を擦りながら「おはよう…」と呟く様に挨拶をした。
「おう」
それだけの返事を返し、再び視線を車に戻す。汗とエアコンが俺の体温を下げ、先程までとは逆の「寒い」という感覚が沸いてくる。どうやら秀護も同意見のようで横目で確認すると体を縮め少し震えていた。
「冷えるな」
独り言のように言い捨て、エアコンを切る。そして窓を開けた。太陽の日差しと蝉の声、そして楽しそうな声が大きくなった代わりに、生暖かい風が車内に入り込む。エアコンに比べれば冷え方がいまいちだが今の俺たちにはちょうどいい温度だ。
無言が俺達を包む。あのファミレスの一件以来、解れ掛けた俺達の中は再び固まってしまった。いや俺がそうさせてしまったんだ。お互いに探り合うように空気を読む。どんな言葉がいいのか、どの言葉ならば当たり障りのない会話ができるのだろうか?そんなことを考えている内に俺は右手親指の爪を噛んでいることに気が付いた。
慌てて口から手を話し、そのままカーナビをタッチする。そして昨日登録していた場所、秀護の母親のいる病院を目的地に設定した。もうすぐ終わる、この不思議な旅行も、秀護と過ごす時間も、そして偽りの日常も。
俺は無言でギアを変え、アクセルを踏んだ。


遠く、青く澄んだ空の下、病院に向けて車を走らせる。車内はカーナビの機械的な声と、蝉の声だけが支配していた。目的地まで数十分と表示されたナビの画面。当たり前だがカーナビが指し示す道が正解なのか俺は分からない。俺は機械の様に機械の声に従いハンドルを握り続ける。
「太宰さん」
何回目かの交差点。赤信号で停車した時、不意に秀護は俺に話しかけた。突然のことだったので、反応が遅れてしまった。秀護を見ると、笑顔だった。ファミレス以来の笑顔。時間的にはそんなに経っていないが、なぜかすごく懐かしいように思えた。
「ありがとうございます」
笑顔のまま、かしこまった口調で頭を下げる秀護。きっと母親の所まで連れて行ってくれるのでこんなことをしているのだろう。俺は申し訳がない気持ちになり秀護の頭を撫でた。
「いいんだよ、俺はお前の運転手だからな」
少しだけ上げた顔は屈託のない笑顔ではなく、どこか寂しい笑顔だった。
「それに感謝を言うのは、俺のほうだなよ」
撫でてていた手を離し、完全に顔を上げた秀護は首を傾げた。意味が分からない。そういった仕草だった。信号が青を灯火し、車を発進するために再び正面を向くとき、俺は拳骨を作り軽く秀護の頭を小突いた。
「そんな顔すんな、子供は子供らしく笑ってろ」
俺がそう言い車を発進した時、一瞬戸惑った表情の秀護だったがすぐに笑顔になり頷いた。窓の外からは変わらない蝉の声が響いていた。

やがてたどり着いた目的地。市街地から少し離れた場所にそれはあった。高台のような場所に位置し、駐車場からでも海が確認できるような場所だった。恐らく建てられたばかりであろう病院。建物からは年季というか、古臭さは感じれなかった。
車から降り、二人並んで外来用の自動ドアをくぐる。広いロビーと綺麗に磨かれた床。デザインにも凝っているであろう吹き抜けのロビーは病院とは思えなかったけど、その独特の雰囲気はやはり病院のものだった。どこか刑務所の中と同じ、いやそれ以上に重い空気。形は違えど非日常の象徴なのは同じだ。
受付の女性に病室を教えてもらい、エレベーターに乗り込む俺たち。秀護が背伸びして病室のある階のボタンを押し、ちょっとしたタイムラグの後に扉が閉まりエレベーターが動き出した。
車から終始無言の俺達。でもそれはさっきのような探り探りからくる無言ではなく、違ったモノだった。喋ってはいけない、違う、言葉は要らない。そう場の空気が教えてくれた。
扉が開き、ナースステーションに張られた案内を頼りに目的の部屋へと向かう俺達。そして少し歩いた後に秀護が歩を止めた。相部屋であろう病室には幾つかのネームプレートが張られてあり、そこに先程受付で伝えた名前、つまり秀護の母親の名前がそこに記載されていた。
扉の前でノックをしようとした秀護の手が止まる。そして俺を見つめる。俺は黙って頷いて秀護背中を押した。そして意を決したようにゆっくりと二回扉を叩く。
中からの返答はなくゆっくりと扉を開く秀護。そこには無機質な白い壁と、カーテンで仕切られた島が幾つもあった。恐る恐る部屋の中に入りカーテンで仕切られたベッドの住人を確認しながら歩を進める。そして扉から見て右側の一番奥。窓際に当たるカーテンの向こうを覗いた秀護は、消えるそうなぐらい小さく、だけど確実に言葉を発した。
「…お母さん……」
声を掛けられた女性、秀護の母親は何かを書いている手を止め、ゆっくりと視線を秀護に向けた。
プロフィール

キイト

Author:キイト
名前 キイト(由来は特に無いです

性別 男性

年齢 二十歳以下です

これでもある球技で全国でてます。ちなみに主将。
唯一の自慢できることでした。

好きな物はバイクやゲーム。
最近ちょっとオタクに近づいてたりします。萌えー

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