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手紙、だろうか?秀護の母親は俺達、というより秀護に気づき慌ててそれを隠してしまったので確証はないが、俺には手紙に見えた。恐らく秀護へ向けて書いていたものなのだろう。それをなぜ隠したのか、俺には分からなかった。
「秀、護なの…」
秀護の母は手紙らしきものを自分の後ろに隠しながら目を見開き口を開いた。その体は小刻みに震えていた。予想外の来訪者に驚いているのか、それとも喜びが溢れているのか、いまだに次の言葉を発しない母親。そんな母親に対して秀護は笑顔を向けていた。
「あはは、来ちゃった」
悪戯がばれてしまって申し訳ないような、それでいて楽しそうな笑顔を浮かべて返答を待つ秀護。俺も言葉にこそ出さないが母親の言葉を待っていた。自分の息子が自分の為にここに来てくれた。父親の虐待や、新しい母に空気のように扱われて挫けそうな時に現れた、一筋の希望の光を辿って、ここまでやってきた。さあ、労ってやってくれ、潰れそうな位抱きしめてやれ、そして笑顔で思い切り泣いてやれ。
だが、待ち焦がれた母親の言葉は意外だった、いや失望といっても過言でもないだろう。
「なんでここに来たの?」
―ナンデ、ココニ、キタノ?
初めは意味が理解できなかった。ぐるぐるとその言葉は俺の頭の中を駆け回り、その言葉の持つ意味を脳が処理をした瞬間に一つの感情が湧き上がった、怒りだ。怒りは俺の体を段々と支配しその塊は言葉となって吐き出された。
「なんだよ、その言い草は!コイツは、秀護はあんたに会うためにわざわざここまで来たんだぞ。あんたが唯一の希望だったんだぞ!なのに、あんたは…」
「黙りなさい!」
拳を握りながら頭よりも感情から出た言葉を叫んでいたら、母親の声で遮られた。それは、うるさい子供を諭すような、研ぎ澄まされた言葉だった。
「ここは病室です。他の人の迷惑を考えなさい。だいたい貴方は誰なの?」
一度ため息を吐き出した後、呆れた様に首を振り、冷たい目で俺を睨んだ。身を切られるような、そんな目だった。俺はその迫力に冷静になり、握り締めていた拳から力を抜いた。
「俺は太宰、秀護の運転手だよ」
母親の言葉にショックを受けていたのか、俯きうなだれた秀護の肩に手を置きそう答えた。すると母親は一度鼻で笑ってから俺に頭を下げた。
「怒鳴って悪かったですね、私は空見子。空を見る子と書いて空見子です」
そう言って浮かべた笑顔は僅かばかりだが秀護に似ていた。そして自己紹介の仕方も。やはり親子なんだなと思ってしまう。俺は丁寧な挨拶に「いえ、俺も悪かったです」と重ねて詫びた。右手を置いたままの秀護の肩は僅かに震えていた。俺はゆっくりと肩から手を下ろし口を開く。
「……それじゃ頑張れよ」
秀護の頭をポンと軽く叩き、病室を後にする。ここに居ても邪魔になるだけだ、掛けてやる言葉も何もない。逆に事態をややこしくしただけじゃないか。馬鹿な自分が嫌になる。俺は病室から少し離れた所にある談話室のような場所で椅子に腰掛けた。
ちらほらと入院患者や、そのお見舞いの人と思われる人達の姿がそこにあった。何もすることのない俺は近くにあった週刊誌を手に取るとパラパラとページを捲り読み始める。だけどそこに書いてある文字は俺の中で意味を成さず、目に映るだけで何も頭の中に入ってこなかった。頭の中にはどこか冷めたような笑顔の空見子さん、そして言葉を失い、人形のように立っていた秀護がずっといた。
なぜあんな言葉を言ったのだろう。冷静になって考えてみる。なぜ空見子さんは秀護の行動を否定するような言葉を選らんだのだろう。俺が空見子さんの立場なら優しく迎えてやるのに。あんなんじゃ秀護が可哀想過ぎる。
ガリガリと爪を噛みながらろくに読んでも居ない週刊誌のページを捲る。すると聞こえてきた会話、どうやら俺のすぐ後ろの席で話しているであろう女性の声だった。恐らく入院患者同士だろう。後ろを振り向けば、パジャマを着たおばさんと呼ばれるくらいの女性二人が内緒話をするような声のトーンで話していた。


「…個室に移るの、一週間後らしいわね」
「空見子さんでしょ。最近無気力だったからもしかしたらって思ってたけど…酷ね…」
空見子さんという単語に反応して雑誌のページをめくる手が止まる。そして再び後ろを振り返り、二人の話に耳をかたむける。
「私達とは、程度が違うからね」
そういって片方のおばさんが包帯で巻かれた右腕を眺めながらしみじみと呟いた。一方のおばさんもため息混じりに「そうね」と呟き、目を伏せた。
『一週間後』
『程度が違う』
その言葉で俺は少し察した。空見子さんの今の状態、そしてなんで秀護にあんな冷たい態度をとったのか。きっとアレは彼女なりの秀護への気遣いだったのかもしれない。でも俺は最良の選択だとは思えなかった、例え空見子さんが正解だったとしても俺は受け入れれない。
―秀護だってそうだろう?こんな幕引きは望んでいないだろ?
そう考えたとたん苛立ちが止まった。なんてことはない、シンプルな理由だった。秀護が笑っていて欲しい、例えすぐに去ってしまう偽りの幸せだろうと感じて欲しい。今まで頑張ってきた結果を味わって欲しい。
俺は週刊誌を椅子に投げ捨てると立ち上がり、病室へと足を向けた。
プロフィール

キイト

Author:キイト
名前 キイト(由来は特に無いです

性別 男性

年齢 二十歳以下です

これでもある球技で全国でてます。ちなみに主将。
唯一の自慢できることでした。

好きな物はバイクやゲーム。
最近ちょっとオタクに近づいてたりします。萌えー

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