スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

15

「…貴方に、何が分かるのよ……」
沈黙を破ったのは、空見子さんの震えた声だった。俺が顔を上げると彼女の瞳には涙が溜まっていた。
「お、夫に裏切られて…秀護まで居なくなって……新しい道を踏みだそうとしたら……そ、その道でさえ、途切れた私の気持ちが………貴方に分かるっていうの!?」
その言葉と同時に隻が切れた様に両目から涙が溢れ出した。拭っても拭っても枯れることなく流れ続けていた。
いつの間にか蝉は鳴き止み、屋上には彼女の嗚咽だけが響く。
「分かるさ…俺も貴方と一緒だからな」
もちろん俺は病気でもない。きっとまだ数十年は生きることができる。しかし、未来を断たれた空見子さん。犯罪者として十字架を背負って生きる俺。
互いに普通といわれる人達からはみ出した非日常の住人。そして、秀護に仮初めの日常を求めること……それが空見子さんと俺の共通点だった。
「俺達はアイツに助けられてるんだ。空見子さんが手紙を書いてたのも、つなぎ止めたかったからなんだろ?」
「…………」
彼女は俺の言葉に俯き、体を震わせる。彼女は自分と秀護を、そして日常を手紙でつなぎ止めたかったんだと思う。
一方で諦めて、一方で希望を残していたんだと思う。それは俺と一緒だった。
「俺の名前は太宰じゃない。これは偽名だ。本当の俺は空き巣を繰り返した犯罪者。自分で道を途切れせてしまった男なんだよ」
全てを、話した。日常への疑問を感じ家を飛び出したこと、犯罪を犯し日常からの異脱をしたこと、そして秀護を通して日常をつなぎ止め様とする自分を……全て、話した。
病人と犯罪者では全然違うが、少なくとも彼女は俺と同じ様に感じた。
「結局、秀護の為と思ってしていたことは、全部自分の為だったんだよ…」


自分に言い聞かせるように、空見子さんに話した。一つ一つ自分の過去を振り返るように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
空見子さんは俺を咎めることもなく、ただ俯いたまま話を聞いてくれた。いつからか、彼女の肩の震えは止まり、すすり泣く声も止んでいた。
そんな空見子さんと入れ替わるように鳴き出した蝉。休むこともなく、愚痴も言わずにただ叫びだす。
「……一週間しか泣けないのね」
空見子さんが呟いた。俺に、というより独り言の様に喋りだした。
「蝉は…地上にでて一週間しか命がない。だから一週間しか泣けない。いや、一週間しか泣かない」
彼女はゆっくりと顔を上げ、真っ直ぐ俺を見つめる。フェンスでも、空でもなく、真っ直ぐ俺を見てくれた。
「私は…まだ地上に出ていない。例え体が半分しか出ていても、まだ残していく人達に声は届くはずよね」
俺は空見子さんの言葉にしっかりと頷いた。彼女の瞳は生気が溢れていた。力強く、真っ直ぐに俺を捕らえていた。
「自分自身の為じゃなく、あの子の為に…私はあの子の母親だもんね」
そう言って笑顔を向けてくれた。夏の日差しに照らされた顔は綺麗で、寂しさは全く感じられなかった。そしてその笑顔は改めて俺に覚悟を決めさせてくれた。
ー俺も、アイツの為に…
もう、半端な覚悟なんかじゃない。例え何があってもこの覚悟は揺るがない、崩さない。
「いい笑顔ですよ…それじゃ、俺は秀護を呼んできますから」
そう言って彼女に背を向けると病院への昇降口へと歩きだす。後ろから「ありがとう」と聞こえた気がした。
プロフィール

キイト

Author:キイト
名前 キイト(由来は特に無いです

性別 男性

年齢 二十歳以下です

これでもある球技で全国でてます。ちなみに主将。
唯一の自慢できることでした。

好きな物はバイクやゲーム。
最近ちょっとオタクに近づいてたりします。萌えー

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。